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INEVITABLE ja night 開催レポート - テックカンファレンスから見るテクノロジーの不可避な流れ(後編)
2019年9月6日金曜日
Google Cloud に代表されるクラウド技術の進化が引き起こすその先の世界を、機械学習、VR / AR、IoT などの領域で活躍されている方々と一緒に議論するイベント「INEVITABLE ja night」。
2019 年 6 月 25 日に開催した第 9 回目は「デベロッパーカンファレンスから読み解くテクノロジーの不可避な流れ」がテーマでした。対談では、国内外のデベロッパーカンファレンスに数多く参加されている 及川卓也さん(Tably 株式会社 代表取締役 Technology Enabler)をお迎えし、次々に登場する新しいテクノロジーがビジネスをどのように変えていくのか、その潮流について語っていただきました。後編では、海外と日本のカンファレンスの違いを中心に語っていただきました(前編は
こちら
)。
海外と日本のカンファレンスの違い
小島:ちょっと話題を変えて、海外と日本のカンファレンスの違いをお聞きしたいと思います。日本のカンファレンスの印象はいかがですか?海外のカンファレンスと比べて、日本のカンファレンスはここが大きく違うという点はどこにあるでしょうか?
及川:コミュニティに関連するものは結構出ているのですが、企業が主催するプライベートカンファレンスへの参加は少ないです。過去、マイクロソフトの開発者イベント「 de:code 」に参加したことはあります。コミュニティ系のものも企業主催のものも、私の印象としては、参加者が受け身に見えてしまうんですよね。
小島:セッションを聴きに来ている、表現はさておき、先生と生徒みたいな関係ってことですか?
及川:そうです。海外のカンファレンスでは、会場の中央付近にマイクスタンドがあって、質問をしたい人はそこに並んで、講演者が順番に質問を受けていくんです。ずらっと並ぶんですよね。例えば、40 分のセッションで 20 分で講演が終わると、残り 20 分間はずっと質疑応答ということはよくあることです。最近の Google I/O や Cloud Next では、会場で質問を受けるというよりは、オンラインで受けるシステムに変わっていますが。
しかし、日本では参加者が大勢の前で質問をすることは稀ですよね。また、講演者に挨拶にいったり名刺交換をする人はたくさんいますが、質問もコメントもしない方が多いじゃないですか。こういう点が受け身と感じているところです。
小島:受け身な姿勢だと、どんな点がまずいのでしょうか? de:code を例にすれば、本国(US)で発表されたことを日本語化してきちんと伝えているわけですよね。
及川:そもそもコンテンツというのは壇上から講演者が参加者に対して一方的に与えるものでは無くて、例えば、参加者からの質問もコンテンツを作る上で非常に重要なんです。その質問は質問者以外の人にとっても意味がある場合がありますからね。講演が終わって個別に質問する人は、これは自分だけが聞きたかったことだと思い込んでいるかもしれませんが、多く場合、他の人にも参考になるんです。つまり、コンテンツは主催者と参加者双方で作っていくものなんです。また、話す側からすると受け身の姿勢の方と積極的に参加しようとされている方では、こちらへの熱意が全然違いますよね。
小島:受け身姿勢の方にはなんかパワーが吸い取られている感じするんですよね。
及川:腕組みをして機嫌が悪そうな顔をして、講演者を睨んでいるような人っているじゃないですか。そういう方が相手だと、こちらもできるだけ早く終わりたいな、言いたいことだけ言ってさっさと終わりにしようという気持ちになってしまうわけです。
小島:聴衆者の振る舞いで、こちらの引き出しの使い方も変わるということですね。
及川:私も小島さんもこういう場で話をして緊張するタイプではないですが、でも緊張してる人はできるだけその緊張を緩和させてあげる方がいいんですよ。つまんない冗談でも笑う、これとても大事です。自分が同意できることに対しては積極的にうなずくことも大事ですね。
小島:うなずいてくれるとテンポがよくなるんですよね。
及川:話す側からはこうした反応が全て見えるので、話す内容を変えることもあります。講演に慣れている人は、どうもこれは通じていないなと思ったら説明を補足しますし、どうやらわかってるなと感じたら割愛もします。聴衆側が積極的に参加することで、そのセッションの内容は深まっていくと思うんですよ。日本のカンファレンスではそこが少し足りないかなという印象です。
小島:日本のカンファレンスのあり方と言うよりもオーディエンスの方がもうちょっと変わったほうがいい、もっと引き出せるものがあるんじゃないかということですね。
及川:それから、外資系企業の例ですけど、本国では参加費が有料、でも日本では無料というところが多いですよね。
小島:無料にすると、本社(US)から降りてくる目標値を達成しやすいということもあります。もちろん、有料化した方がいろいろな面で質は高くなるだろうという期待はあるのですが、二の足を踏んでしまうんですよね。
及川:その点は理解できるのですが、先程話した参加者が受け身になりがちというところに通じるものがあるのではないでしょうか。お金を払ったら元を取ろうと思いますよね。参加費を会社が払ったか、自腹かに関わらず、私だったら、払った分を絶対に取り戻してやろうと思うわけです。そこできちんと吸収しようとね。すると講演を聞く姿勢も変わってきます。すべてが無料という状況はどうかなあと思いますね。
小島:自分ゴト化するときに有料カンファレンスって実は大事なことかもしれないですね。質問しやすい雰囲気作りは参加者の人にその気持ちがないとなかなか成り立たないですよね。
及川:今の日本では、有料化が難しくなってきていますね。これに限らずコンテンツにお金を払う習慣がいつしか失われた気がします。
小島:テクノロジー知識のデフレ化が進んでいると。
及川:そう思います。経済回さないと。お金は払う。お金を払ったら取り戻しましょう。その分みんな稼げばいいんじゃないか、と思うところもあります。このままデフレが続くとコンテンツの質も下がるのではないかと危惧しています。
なぜカンファレンスに参加するのか
小島:どうしたら及川さんのように視座の高いテーブルの上から物が見えるようになるのでしょうか。ヒントをいただけますか。
及川:私の視座が高いかどうか、自分ではよくわからないので、使えるところだけ使ってもらえればよいのですが。
そもそも、国内外のカンファレンスに自らの足を運ぶ目的はコンテンツだけではありません。コンテンツだけなら、たとえば、Google I/O はライブ配信で見れますし、数時間後にはほぼすべてのセッションの動画が YouTube に上がっています。F8 も 1 週間後にはセッション動画が上がっていました。後から見られれば充分なんです。しかし、その場にいることが大切です。私と同じような方、もしくは私よりも若くて優秀な Google テクノロジを使うエンジニアがそこに集まって、そのコンテンツを聞いたときにどう反応しているか、 ここでみんなが熱狂しているとか。また逆に、会場全体がなんとなくつまらない雰囲気で、ステージから「今日は皆これあげるよー」の後、「おー」と会場が盛り上がったりすると、今日は自分としては興味をそそられる内容じゃなかったけれど、実はみんな同じことを思っていたんだとか、そういうことを知りたいわけです。その場にいなければ、わからないことはたくさんあります。
参加者の意見をそこで聞けるというのもありますね。このように、行かないとわからないところもあり、だから時間作って参加しようという気持ちになるのです。
小島:全員が参加できるわけではないので、参加したらやったほうが良いことは何でしょうか?
及川:参加した人は、ハッシュタグをつけてツイートすることですね。つまり、アウトプットです。人間はアウトプットしないと成長できないというのが私の信条です。
小島:そこは共感できます。たくさんインプットをもらった後、アウトプットしようかということになりがちですが、この状態では絶対にアウトプットはできないと思っています。まずは、アウトプットして、その反応を見てから、次のインプットを行い、またアウトプットする・・・この方が絶対良いですよね。
及川:マラソンにしても水泳にしても吐いてから吸うんですよね。吐かないと吸えないわけです。最初に何をするかはさておいて、アウトプットの場を作ってしまい、継続的にアウトプットしていくようにすると嫌でもインプットをすることになります。
小島:そうですね。僕はよく発表すると10 倍リターンありますよという話をします。アウトプットするというのは自己紹介のようなものですから、周りに認知されるわけです。後のネットワーキングが非常に楽になります。
個々の技術トレンドを知ることも重要ですが、もし、その場に行くことができるならば、そこでのインプットは必ずアウトプットするべきです。そしてまたインプットして、アウトプットする。この連鎖を続けることでいろいろな事が見えてきます。
及川:少なくとも、アウトプットしないとインプットできません。もし、アウトプット先が無い場合、インプットしたとしてもそのインプットの質は落ちると思うんですね。質問することを前提に人の話を聞くと、全然違うんですよ。質問しようと思っていたことが、先に解説されてしまっても良い。、そうしたら他の質問を考えるだけで、インプットの質があがると思います。
小島:ありがとうございます。少し時間もあるので、会場から質問をを受けたいと思います。
Q&A - どんなカンファレンスに参加しますか?
質問者:どういう基準で行くカンファレンスを決めていますか?
及川:門外漢のカンファレンスですと、やはりインプットもなかなか難しいですね。
そこで、少なくとも自分がある程度の活動している分野を選びます。キーとなるテーマを決めて、事前に理解した上で参加するかしないかを判断します。
小島:例えば、AI に興味を持ったときは、AI 軸でいくつかのカンファレンスで見ようとか、吸収しやすとか、アウトプットのしやすさという観点もありますよね。
及川:私の場合、Google のテクノロジーを長年見ているので、定点観測ができます。Cloud Next、Google I/O、年によっては Chrome Dev Summit にも参加します。そうすると同じ技術テーマであっても、内容がどう変わったかがわかります。「Google」という会社に絞っても良いですし、気になっている技術テーマがあれば、それを取り上げている企業イベントに参加するのもありです。テクノロジーではなくて、マーケット系のイベントでもあるでしょう。また、こうした興味・関心と少し違うところを狙って、カバレッジを広げていくことも大切です。
小島:わりと大きめの会社が初めて開催するイベントは狙い目です。イベントの企画、運営、稟議を通すことに関わってきた経験から申し上げると、初回というのが企画の趣旨、コンセプトに一番忠実で、しかも背伸びをするんですよね。持っているカード全部切ってしまうことが多いので、大変お得です。どうやらこの会社が何か新しいカンファレンスを開催するらしい、面白そうだと思ったら、ぜひ参加してみましょう。
Q&A - 面白かったコンテンツは?
質問者:これは面白かったというコンテンツを教えてください。私個人は、エストニアで行われたスタートアップイベントで、投資家が自らをアピールしそれを起業家が審査するというものが面白かったです。
小島:要は生徒が先生を審査するというものですね。私が面白いと思った最近のイベントは re:MARS です。この MARS を火星(MARS)にかけて、ステージでは『オデッセイ』(原題: The Martian)のマットデイモンが登場と思いきや、実はそこにはアイアンマンのロバート・ダウニー・Jr. が登場。お前はマット・デイモンの代役だと散々コケにされながらも、映画の中で、アイアンマンと相棒ジャービス(J.A.R.V.I.S)が会話しているように、ステージでは Alexa とロバート・ダウニー・Jr. が会話をはじめます。テックカンファレンスの文脈でその会話は続くわけですが、それすごく豪華だなと思いました。こうしたエンターテイメントは日本ではなかなか実現できないことです。アメリカの超一線級を連れてくるというのはなんか振り切っていていいなと思いました。
及川:ライブコーティングは面白いコンテンツですね。Google I/O でも、ここ数年やっています。たとえば、Firebase を使ったり、Android だったり、ウェブだったり。タイムキーパーもいて、解説しながらライブコーディングが進行し、しかも結構ガチに競い合っていて、迫力を感じます。
Q&A - 海外と日本のコンテンツの違いは?
質問者:海外と日本でコンテンツに違いはあるのでしょうか?お話にもあったように、日本は無料のカンファレンスが多くて、万人受けする当たり障りのないものが多いイメージがあります。
及川:Cloud Next Tokyo に参加したことが無いので、単純比較はできないですが、米国で開催された Cloud Next と似ているところも、違うところもありますね。開催規模も対象者も違いますからね。
また、講演者がその製品の開発者自身が喋るかどうかという点に違いがあります。日本法人の社員がその製品について十分に理解して話をしたとしても、そこは開発者ではないので内容に違いが出てくるのは仕方ないことかもしれません。なので、開発した当事者の話を聞けるというはとても貴重なことです。
たとえば、今年の Cloud Next Tokyo には、ウルス ヘルツルが来日します。彼は、Google の 8 番目の社員で「The Datacenter as a Computer」の著者の一人です。
なぜ、こういう人が来日するかといえば、マーケットが大きいからなんです。しかし、日本は少子化もあり今後マーケットは小さくなると言われています。今年は来日したけれど、来年は来るのか、いやそもそもイベントが中止になる可能性も否定できません。
そこで、参加者の皆さんは、イベントの主催者、運営者に対してフィードバックを行い、そのイベントの価値をきちんと示していかないと、次はアジアの他の国に行ってしまいます。先程申し上げたように、できるだけ皆さん積極的に参加して、そこできちっと価値を生み出して頂きたいと思います。
さらには、同時通訳無しで英語のコンテンツをそのまま利用できる状況ができれば、もっと良いセッションを組むことができます。運営側にとってもメリットがありますね。英語のコンテンツを聞けるようになるといいんじゃないかなと思いますね。
小島:あと、聴衆者のレベルにあわせたコンテンツの提供ですね。海外のカンファレンスでは初心者向けは 101、中級レベルだとこれこれ、というようにどのレベルの人向けかを明確にしています。ご質問にもあったように、日本では比較的ジェネラルな内容にする傾向があるようです。イベント主催者・運営者側により深い内容を求めることをみなさんが積極的に行っていけば、おのずと変わってくるんじゃないでしょうか。カンファレンスは参加者とともに育てていけば、いろいろなことが変わると思います。
ということで、時間がいっぱいいっぱいになってしまいましたので以上で終了となります。ありがとうございました!
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