Google Cloud に代表されるクラウド技術の進化が引き起こすその先の世界を、機械学習、VR / AR、IoT などの領域で活躍されている方々と一緒に議論するイベント「
INEVITABLE ja night」。 2018 年 12 月 14 日に開催した第 7 回目のイベントは、「
コネクティッド社会に向けた不可避な流れ」をテーマに、コネクティッドな社会に向けて、現在進行形で起きていること、そして近未来の不可避な流れについて、ソラコム代表取締役社長の玉川憲さんをメインゲストにお迎えしてお話をお伺いました。(前編は
こちら)
データの時代へ
小島:私たちの生活に欠かせないエネルギー源として石油があります。その昔、石油は結構厄介もの(食べられるわけでなし、匂いもきつい、環境にも悪いなど)だと言われています。しかし、その後、石油を使うための方法が発明されるとその価値も認められ、多数の関連産業が生まれました。
今、同じことが「データ」の領域でも起きているのではないかと感じています。記憶装置の容量が制限されていた時代は、使い道のないデータは残しておいてもしょうがないという風潮でしたが、いまはその制限を気にする必要もないほど安価にデータを保存できます。そして、現在、データに価値があることが見出され、データの活用が進んでいる感じがあるのですが、どう思いますか?
玉川:本当にそうですよね。GAFA をはじめとするネット企業は、これを地で行っています。広告ビジネスの世界ですと、オンライン上でのユーザーの行動を分析して、SNS 上でこれいいねってしたら、別な E コマースからリコメンドを受けることが当たり前になってきていますよね。
小島:近くに美味しいラーメン屋がありますよって、頻繁に通知が来るんですよね。こちらが提供しているデータが良い形でフィードバックされてるなと感じます。
玉川:コテクティッドな世界では、オンライン上のデータだけでなく、自分がラーメン屋にいますよという位置情報のようなオフラインのデータも取れるわけです。オンライン上でどう行動して商品を購入したのかというオンラインのデータに、オフラインのデータを組み合わせた広告ビジネスもありますね。ハードウェア売りからサービス売りに変わる業態では、どれぐらいの粒度でお客さんにサービスを提供できるかは、結局そのオンライン上のデータをどこまで細かく取れるかによると思います。
小島:情報の粒度でそのあとのアクションが変わるということですね。
玉川:たとえば、飛行機のエンジンの場合、これをモノとして買う会社は現在ではほとんど無く、エンジンを使った分に対してお金を払っています。つまり、エンジンの使用量が測れる会社は、そういうサービス売りができるわけです。シェアリングエコノミーはこの考えに近いですね。Uber のようなタクシーから自転車、最近ではスクーターも、誰がいつどこでどのぐらい使ったかというデータをきちんと取れていているのでビジネスとして成立しているわけです。今後、さらに細かいレベルでオンライン上のデータを取ることができて、クラウドにつながったら、いろいろなビジネスチャンスがあると思います。
データをマネタイズする
小島:石油の話に戻りますが、石油を採掘する人とそれを使う人は分かれていますよね。石油を掘れば売れる仕組みができあがっています。データもそうなるんでしょうか? データの使い道を特に考えなくても、データを取ることそのものがビジネスになるんですかね?
玉川:石油の採掘は寡占市場ですよね。データの取得も寡占化するのか?ということですね。確かに、データは一定量集積されることで、その価値が上がる気がします。
小島:でも、その一定量を集積できるプレイヤーは絞られるんじゃないか、石油の話に非常に似ているところはあると思います。そうすると日本だけでは難しくて、世界に向けていろいろなことができた方が集積できるデータ量は多くなります。
玉川:オンライン上のデータは、オンライン上でサービスを提供するプラットフォーマーに集積してしまうので、今からとなると、まだ取れてないオフラインのデータだったり、自分しか取れないデータだったり、現時点では価値を見出せていないデータをどれだけ集められるかという競争になるんでしょう。
小島:データ量が小さい、石油の例でいうと採掘量が少ない場合は、取得したデータの価値を見いだすことは難しくなりますよね。
玉川:そういう場合は、ブロックチェーンのように、データの生み出したことから途中の使われている状況をトラックすることで、また別な価値が得られると思います。すでにそういう方向の取り組みもあるようです。
小島:今、その使い道がわからなくても、やがては価値をもたらすデータになるかもしれませんね。ただ、そうなると、なんでもかんでもデータを取ろうという流れになりそうですね。一方で、最近、ヨーロッパでの個人情報の保護の規制強化も始まっています。
玉川:正しい方向に進んでいくための良い意味での、歯止めというか、それはやっては駄目じゃないのという警告なんじゃないでしょうか。個人情報を漏洩した企業の株価が一気に落ちたというニュースを聞くと、まさにマーケットが、そんなことをしては駄目だよと言っているのだと思います。
小島:こういうニュースが出ると、データを取ることそのものが駄目だとなりがちなのですが、データの取り方や作法をどうするかが重要であって、データを取得することを止めてしまっては、先に触れたようにデータ集積の競争に負けることになってしまいます。
玉川:データの正しい取り方、データの利用規約、お客様への説明責任など、データの取り扱いについて企業がノウハウを貯めていますね。
テック系企業が変わる
小島:コネクティッドな社会では、テック系企業にどんな変化が起きると思われますか?
玉川:個別の企業について細かく言及はできませんが、ざっくり言えば、ネット系企業がリアル側にも来ているという印象があります。一方、リアルなものを扱う、例えば製造業がハードウェア売りからサービス売りにシフトしていかなければならないということで、ネットの技術やビジネスを理解している人材を求めていますね。
小島:ネット系企業と同じスピードとアジリティーを持たないと今後の生き残りが難しいということなのでしょうね。
玉川:少し話は逸れるのですが、アメリカのMBA(経営学修士)プログラムに入った日本人同期生 4 名の方が書いた記事(東大・京大・早慶→一流企業のエリートが「日本ヤバイ」と言う理由)の中で面白いことが書かれていました。
小島:面白いとは?
玉川:著者の一人が、留学先でアメリカ人の同期生から、MBAプログラムを終えて日本の会社に戻ったら、何をしたいのかと聞かれたそうです。その問に対して「社費派遣で来ていて、会社には戻るけれど、復帰後の仕事は決まっていない・・・」といった回答をしてしまい、具体的にこれをしたい、将来こうなりたいという自分の志を示せなかったそうです。
一方、その問いかけをしたアメリカ人の学生は、MBAプログラムで何を習得したいのか、将来何をしたいのかという自分の目標を明確に持っていたそうです。
小島:何かをするために MBA を取りに行ったはずなのに、会社が言うから来たみたいになってるんですね。勉強して帰ったら、どっかに配属されるんじゃないかなみたいな。
玉川:(前編で紹介した)このボタンも、ブログや SNS で多くの方が評価してくださっていて、とても嬉しいのですが、たまに、寂しくなる意見を見ることがあります。何かというと、「ボタンすげー!面白い! でも正直俺何に使っていいかわかんない」という意見です。先の MBA 留学生の記事のように、何のために、何を目標として、わざわざアメリカまで来たのかということに似ていると思うんですよね。今の日本の閉塞感を言い表しているなあと。
小島:ここにジャンプできる装置があるのに、どこにジャンプしていいのか分からない感じですね。
玉川:技術が好き、スキルもある、成績も優秀、でも自分が何をやりたいのかをわかっていないし、どのような課題を解決したいのかというのかがわかっていない。今までそういう経験が無いから、急にやれって言われても何もできないというか、そういう感じでしょうか。
現実と夢の間で
小島:こちらの「
現実を受け入れながら夢を見る 「矛盾」がある人が実は強い理由」という記事。タイトルに矛盾というキーワードがありますね?
玉川:高橋祥子さんというスタートアップ企業の代表の方が書かれた記事です。スタートアップ企業の経営は凄く矛盾があるという話です。キャッシュを回すという現実と常に向き合わなければならない、しかし、夢がないと、人材が集まらないし、ビジネスも進まない。今を戦うことと、先を見て夢を追いかけることは完全に矛盾していて、るのですが、これらを両立させないと生きていけないっていう話なんです。記事の中では「同時矛盾的行動」と言っています。
小島:これも、先の出口問題ですね。将来の夢と今の苦しい状況を並べて語ることは矛盾しているように見えるけれど、夢の実現のための第 1 歩くらいに考えていると、受け入れられるみたいな。
玉川:ただし、現実に重きを置くか、将来に重きを置くかでものの見方が全然変わってしまうということも、この記事は語っています。
自分の今居る場所、会社、日本という環境はすべて現実です。一方で、ちょっと先の未来も見えていて、この現実とちょっと先の未来のギャップが大きいと、すぐに諦めてしまい、未来のことを考えなくなってしまっている風潮がある気がしています。
小島:現実から未来への変化は避けられないことで、自分を変えることのできる人はまだまだ少ないということですね。しかし、だからそこを変えていかないと、コネクティッドな不可避な流れには乗れない、すごいチャンスのはずなんですけどね。
玉川:そういう意味でも教育は重要です。高橋さんの記事では、現実の視点と未来の視点という 2 つの視点も、ちょっと距離を置くことで両方の視点が共存できると述べています。しかも、現実と未来のギャップが見えていれば、そのギャップはパワーになるという前向きなことも書かれています。我々もスタートアップですが、理想は当然ありますし、現実はこうだようねと認識しています。現実と理想のギャップはまだまだ深いのは事実ですが、そこをどうにかして埋めたいというパッションがエネルギーになります。
小島:なるほど。ものの見方を少し変えることで、物事を前向きに考えられるということですね。
さて、少し時間もあるので会場から質問を受けたいと思います。
質問者A:5G について伺います。
5G でネットワークスライシングという技術があります。用途に応じてデータを送る単位を変えることができるのですが、これをキャリア側ではなくて、ユーザー自身が変更できるようになると、もっといろいろなことができる気がしています。どう思われますか?
玉川:ネットワークスライシングは 5G の中で技術的に革新が起きるエリアだと思います。ただ、あくまでテクノロジーの話なので、それをどういうアプリケーションで活かすのかはユースケース次第だと思っています。具体的に、医療なのか、ロボットなのか、エンターテインメントなのか、どこにどのように応用できるのかはわからないですが、課題意識があって、そこにテクノロジーの進化っていうヒントがあったときに、偶然の発見があると思います。
質問者B:あのボタンについて伺います。デパ地下とか電波が入りにくい場所で使いたい、しかも大量に利用するケースでは、まだ厳しいのかなと思っているのですがいかがでしょうか?
玉川:この問題はテクノロジーの制約がどの程度ありますかという話なので、やりたいことととこの技術上の制約を照らし合わせたときに、その制約で解決できるのか、乗り越えられるのかという話ですね。
クラウドが出てきた時も、クラウドって落ちることあるよね、でも落ちたらどうなるんだろうといった同様の話がありました。
つまり、ビジネス的なトレードオフなんです。SLA100% という発想のもとでは、イノベーションは起きないと思っていて、そこはやっぱりトレードオフを見極められる人が必要です。もちろん、そのテクノロジーが足りないという状況もあると思いますが、技術上の問題は、半年後には解決しているかもしれません。
質問者C:ボタンが 1 つから 2 つになることはありますか?さらに、それだけでは足りなくて画面もついてしまうと、それってもうスマホでは?ということになると思うのですが。このボタンを玉川さんはどのように育てようと思っていらっしゃいますか?
玉川:このボタンの本質は電源が要らないと言うことなんです。スマホのバッテリーはせいぜい 1 週間しかもちませんが、このボタンは 1 年間は大丈夫です。バッテリーが 1 週間とか数日しか持たない物ですと充電は必須ですから、そこに電源が必要になるのか、電源を入れ替えるか、充電する仕組みが必要です。
この Low Power という点が肝なので、たとえば、これにボタンが 2 つあり、小さなディスプレイがあったとしても、省電力で電池を持たせることはできると思うので、十分レパートリーとしては考えられると思います。どう進化させていくかはお客様の要望を聞いて、考えたいと思います。
小島:今日は皆さん、忘年会の時期にもかかわらずこうしてイベントに参加いただいたいるので、玉川さんの話を聞いて勉強になったと思って帰るんじゃなくて、次のアクションを起こすとか、周りを巻き込んで何かを始めるといったことに結びつけていただきたいと思います。
今回は玉川さんにいろいろなお話を伺いました。ありがとうございました。
関連資料;
「Inevitable ja night Vol.7 SORACOM 玉川さんとの対談進行スライド」(小島英揮氏)
INEVITABLE TV - 「IoT 活用最前線、ソラコムに聞く事例 7 選」
玉川さんをゲストにお迎えし、イベントでは取り上げることができなかったこと、語り尽くせなかったことを中心に、お話いただきました。
内容:
- なぜいま IoT なのか? ソラコム創業の背景
- IoT 事例 7 選
- IoT の今後のトレンドと鍵となるテクノロジー