Google Cloud に代表されるクラウド技術の進化が引き起こすその先の世界を、機械学習、VR / AR、IoT などの領域で活躍されている方々と一緒に議論するイベント「
INEVITABLE ja night」。 2018 年 12 月 14 日に開催した第 7 回目のイベントは、「
コネクティッド社会に向けた不可避な流れ」をテーマに、コネクティッドな社会に向けて、現在進行形で起きていること、そして近未来の不可避な流れについて、ソラコム代表取締役社長の玉川憲さんをメインゲストにお迎えしてお話をお伺いました。対談セッションのサマリー(前編)をお伝えします。
小島:あらゆる産業や社会でモノ、ヒト、データ、プロセスがつながりはじめています。これらがすべて繋がったいわゆるコネクティッド社会に向けた不可避な流れについて、ソラコムの玉川さんとともに、皆さんとお話をしていきたいと思います。では、ここにあげた 3 つのテーマで議論を進めましょう。
- IoT を越えたコネクティッド社会を実現する技術トレンドを理解する
- コネクティッド社会がもたらす社会で、どんなゲームチェンジャーが起きるのかを考える
- コネクティッド社会をどう捉えるべきかを自分ごとで考える
玉川:2015 年にソラコムを創業し、3 年が経過しました。当初から、シリコンバレーのテック系のスタートアップを目指しており、まずは、7 億円を調達して、ステルスで開発して、IoT 向けの通信サービス「SORACOM Air」を提供しました。これは、IoT 向けの通信を API やウェブコンソールでコントロールすることができて、安全にデータを送ることができるプラットフォームです。
小島:最初からグローバルなプラットフォームを目指していらっしゃいましたよね。ローンチ後にすぐに海外に行かれたことを覚えています。
玉川:はい、最初からグローバル展開を念頭に置いていました。日本国内だけをターゲットにしてしまうと、その居心地の良さに甘えてしまい、なかなか外に出ていけないと思ってました。現時点で、グローバル SIM の出荷量は、国内を上回っています。
小島:2017年に、KDDI グループに入られましたね。
玉川:とはいえ、今でもソラコムとして独立して経営です。アメリカ、シンガポール、ヨーロッパに拠点を構え、SORACOM Air から始まったサービスも 13 種類に増え、ユーザー数は 10,000 を越えました(2018 年 12 月現在)。IoT も通信だけでなく、デバイス管理や、安全にデータを送受信すること、データの可視化など、お客様の多様な要望に合わせることが求められています。
小島:起業のきっかけは何だったのでしょうか?
玉川:2014 年春にシアトルに出張した時、同僚との会話がきっかけです。当時はクラウドも世の中にだいぶ浸透していて、企業利用も増えていたのですが、金融系や通信系のシステムでは、まだまだ早いという風潮が少なからずありました。
小島:ミッションクリティカルなシステムはクラウドでは動かんみたいな、そういう考えですね。
玉川:2010 年からクラウドの世界を見ている自分としては、クラウドがこれほど大きく成長して、強くなっているのに、そう思っていない風潮に対して、理不尽な怒りのようなものが湧いてきたんです。むしろミッションクリティカルのシステムの方が、クラウドにすべきなんじゃないかと。そこで、思いついたのが通信のシステムです。当時、IoT は新しい分野であり、クラウドと連携することで解決できる課題があるんじゃないかと思ったわけです。
小島:起業された当初、格安 SIM の会社とも言われたことがありましたよね?
玉川:はい。確かに、1 日 10 円から使える SIM ということもあり、格安 SIM の会社と思われたこともありましたね。本当は、クラウド連携や、IoT システムを作る際のリードタイムを短縮できること、フレキシビリティという点を、我々としては重視していたのですが、なかなか理解していただけなかったです。しかし、お客様事例を増やしていくことで、IoT プラットフォームということを徐々に認識していただけました。
”あのボタン”のからくり
小島:最近、「あのボタン」って言われる製品を出されましたよね?
玉川:LTE-M Button というやつですね。ボタンが 1 つだけついたシンプルな IoT デバイスです。乾電池(単 4 電池が 2 本)で数ヶ月動きます。ボタンをクリックする、ダブルクリックする、長押しするの 3 パターンがあって、それぞれのパターンで何をするかをクラウド側で定義します。
小島:サーバーを特別に意識しなくていいわけですね。
玉川:サーバレス&ハードレスというか、何も考えずにここを押すとシグナルが送られて、しかもクラウド側で受け取ったシグナルをどう解釈するかをコードとして書いておけばサーバのことも意識しなくていいんです。今まで IoT は難しいと思っていた人も、これを使うことでいろいろなことを実現できます。例えば、小売店の机の下に置いておき、怪しい人がきた時に、クリックして他の店員を呼ぶみたいなことがあっという間にできるわけです。
小島:もっと危険と感じた時は、長押しするとか、そんなことができる。その信号をどのように解釈するかは、クラウド側のコード次第というわけですね。ここで、どうやってつなぐのかとか、電源をオンにするなどは全く気にしなくて良いということですね。
玉川:その通りです。SIM の起動、通信速度を変更したり、ログを見たりなど、仮想サーバを操作することに似ているわけです。お客様との会話を通じて、同様の気づきがありました。そこで、初心に戻り、IoT を仮想サーバとして捉えた時に、仮想ストレージは何で、仮想ロードバランサーは何で、と考え、プラットフォームに必要なサービスとは何か、もう一度改めて作り直していきたいなと思ったのです。
小島:クラウドってポチってやるといわゆるサーバーが立ち上がる、そういう世界ですね。
ハードウェアを購入して、ラックに積んで、ケーブルを繋いで、いろいろな初期設定を行なってようやく動かすことができたわけで、IoTも最近まで同じような状況だったわけです。打破しようというのが、SORACOM Air ということですね。
コネクティッド社会を実現する技術トレンド
小島:では、本題の技術トレンドの話を進めましょう。通信の話題が出てきたので、LPWA(Low Power Wide Area)と 5Gを取り上げます。無線技術として、これら 2 つの潮流があります。LPWA は、省電力で遠くに飛ぶことを特徴とし、5G は大容量のデータを扱える一方で、消費電力が多いと言われています。これら 2 つの技術をどのように捉えていますか?
玉川:いずれもすごい可能性を秘めていることは確かですね。クラウドでの機械学習の機能を考えると、5G の高速・大容量の通信によって、自動車の自動運転やシミュレーション、また、ロボットがもっと滑らかに動かせることができるようになるでしょう。一方、LPWAの進化によって、電源のことを気にせずに、どこからでもデータをクラウドに送ることができるようになります。あえて速度を絞ることによって、モジュールを安く、小さくしつつ、そして省電力という方向性ですね。
NB-IoTという規格では、さらに通信速度を絞り込んで、より小さく、より安価に、そして超低消費電力を実現しています。
小島:5G の時代になると、何が変わるのかをちょっと考えてみたいと思います。ここでは、エンターテック、ヘルスケア、自動車の世界について考えてみましょう。まずはエンターテック分野はどうなると思われますか?
玉川:個人的にはまっている「FORTNITE」というゲームがあります。世界で 2 億人のプレイヤーがいて、同時接続数が 1,000 万にもなると言われています。最近、ゲームの中でロケットが打ち上がるシーンがあったんです。FORTNITEはバトルロワイヤル系ゲームなので、生き残りをかけたゲームなのですが、このロケットが打ち上がっている間、みんな大人しく戦闘やめて、ずっと見ていているわけです。つまり、数百万のユーザーが同じ体験を共有したわけです。ゲームはバーチャルな世界なのに、体験はリアルなんです。
それが今でもできているわけですから、5G の世界では体験できる内容も高度になるし、接続できる人ももっと増えるでしょう。さらに、今は、小さなスクリーンの中でゲームをしていますが、5G の時代にはデバイスも変わるでしょうし、もっと臨場感あふれる内容になるでしょう。
小島:次に、ヘルスケアの分野はどうでしょうか?
玉川:ヘルスケアの分野はウェアラブルな各種センサーが出ていますが、消費電力を抑えることが以前からの課題です。ただ、最近、全固体電池の研究開発も進展していてテクノロジーブレークスルーも起きつつあります。バッテリーが長持ちすれば、心拍数など体の情報を継続して取得できるので、予防医学にも大きく貢献しそうですね。
小島:常時繋がっているセンサーがあって、異常値をチェックしてくれると良いですね。バッテリーの寿命や通信コストの問題が解決されて、デバイス装着が簡単になれば、いつでもデータがとれて、なんか凄い新しい世界が拓けそうですね。
玉川:ヘルスケアから少し離れますが、50 年ほど前は、亡くなった人の写真を持っている人はあまり居なかったそうですが、カメラが普及したことで、故人の写真を持つことが当たり前になったという記事を目にしました。そこには、動画を撮影することも身近になり、故人がどういう喋り方をしていたとかを残せるようになったということも書かれていました。
小島:よりリアルに残すことができるということですね。
玉川:このまま行くと、将来は、無くなった方の知識、思考も残せる時代がくるかもしれませんね。
小島:普通にチャットで話せるぐらいになるかもしれませんね。
玉川:もし、自分の父親が子供の時に亡くなったとしても、二十歳になった時に「俺、ちょっと就職先悩んでるんだけど?」と語りかけると、記録されたものが「いや、俺はな、こう思うよ」と返してくれるかもしれません。
小島:オカルトチックですが、亡くなった人との触れ合い方さえも、コネクティッド時代で変わりそうですね。
玉川:ちょっと気味悪い感じはありますが、写真や動画が普及し始めた時も同じ状況だったと思います。その写真を見たくない、動画を見たくないと思った人はきっといたはずです。
小島:そして、もう一つ、MaaS についてはいかがでしょうか?
玉川:MaaSのサービスの進化はそれぞれのプレイヤーにお任せするとして、個人的に面白いと思っていることのひとつに、コーデングの変化があります。以前ですと、プログラミング言語を駆使して画像処理のコードを書いていたわけですが、自動運転などを実現する機械学習の分野のコーディングとは、ニューラルネットワークをどのように構成するか、いい教師データをたくさん集めて、いかにすばやく学習させるかという点が本質になります。物の作り方というか、コーディングの仕方が、まるっきり変わるのです。過去にも、非常にプリミティブな機械語を書いていた時代から、コンパイラの登場によって、コーディングの仕方が大きく変わった時代もありましたが、おそらく近い変化が、将来訪れるんじゃないかなと思います。
【後編】へ続く
関連資料;
「Inevitable ja night Vol.7 SORACOM 玉川さんとの対談進行スライド」(小島英揮氏)