「テクノロジーは猛スピードで変化するので、どこからどのように始めたらよいのかわからなくなってしまうことがあります。注目すべきことは何なのか。それを見つけ出すのが難しいのです。この難題に切り込むため、デベロッパーの皆さんに明確な方向性を示したいと思っています」
Chrome リードの Paul Kinlan が、Chrome ツールやそのヒント、そして開発を始める方法について直接お話しします。
Chrome デベロッパー コミュニティにはインスピレーションあふれるエキスパートがたくさんいます。その 1 人が、Google 社員として Chrome およびウェブ プラットフォーム デベロッパー リレーションズ チームのリードを担当している Paul Kinlan です。気に入っている Chrome ツールやインスピレーションを受けた Chrome デベロッパーについて、Paul の話を聞きましょう。
自己紹介をお願いします。
「Paul Kinlan です。Chrome およびウェブ プラットフォーム デベロッパー リレーションズ チームを率いています。たいへん幸運なことに、ウェブに情熱を傾け、今後もウェブを繁栄させ続けることにキャリアのすべてを注いでいるたくさんの方々と一緒に仕事をしています。興味がある方は、ぜひ私のサイト paul.kinlan.me をフォローしてください」
子どものころの話を聞かせてください。
「イギリスのウィラルで育ちました。イングランド北西部にある半島で、一部はウェールズに属しています。父親が家でコンピュータを修理している様子など、幼いころからコンピュータに囲まれていた記憶があります(モニターの後ろのコンデンサに触るなと何度怒られたかわかりません... でも、楽しそうに見えました)。
また、コンピュータのクラブに通ってデモやクラッキングの場面を見たり(人からゲームを「借りた」こともあったかもしれません)、学校で自分と同じようにゲームやコンピュータが好きな友だちを探したりしていました」
この業界に入ったのはどうしてですか?特に、なぜウェブ テクノロジーに興味を持ったのでしょうか?
「子どものころ、父は私にプログラミングを教えようとしましたが、よく理解できませんでした。しかし 12 歳くらいのころ、初めてストリート ファイターのアーケード ゲームを見て、ピンときたのです。そして、ループの考え方、ジョイスティックの読み取り方、画面の表示の仕方などを理解しました。
同じころ、祖父が宝くじの番号を苦労して選んでいるのを見て、ソフトウェアで手助けできないかと思いました。QBasic を起動してマニュアルを読み、試してみました。ただ、アメリカでは colour のスペルが違うことも知らなかったので、投げ出しそうになりました...(そこでやめていたら、どんな人生になっていたかと思います)
その数年後に、ウェブが登場しました。少しいじってみて、ちょっとした Perl と HTML で簡単なサイトやアプリケーションを作れることに気づきました。夢中になり、事業を始めて、さらにその先に進みました。今はこの Chrome チームで、私が手にしたのと同じようなチャンスをデベロッパーの皆さんに提供したいと考えています」
デベロッパーが直面している課題には、どのようなものがあると思いますか?
「情報が多すぎることです。テクノロジーは猛スピードで変化するので、どこからどのように始めたらよいのか、わからなくなってしまうことがあります。注目すべきことは何なのか。それを見つけ出すのが難しいのです。この難題に切り込むため、デベロッパーの皆さんに明確な方向性を示したいと思っています」
Chrome やウェブについて詳しく学ぶうえで、特に便利なおすすめの学習リソースは何でしょう?全員が知っておくべきライブラリや Codelab はありますか?
「私の意見ですが、https://web.dev/learn はすばらしいリソースだと思います。ウェブ開発の中核原理が説明されており、私たちは、優れたウェブ開発の手法について、このリソースに最新ガイドを常に反映しようとしています。
私のような人は多くないと思いますが、私自身はプログラミングのリファレンス資料に没頭していたことがあります(そしてじっくりと考えました)。これも始め方の 1 つだと思います。また、MDN(Mozilla Developer Network)と glitch.com や GitHub などのサイトを組み合わせれば、何のソフトもインストールせずに、短時間で考え方を学んだり試したりできます。デベロッパーになるには本当にすばらしい時代です」
デベロッパーや技術者が Chrome やウェブを使って開発する手法のうち、特に驚いたものや刺激を受けたものは何ですか?
「おもしろい質問ですね!
今とてもスリリングなのは、ウェブと ML が交差する部分です。これまでできるとは思っていなかったようなことをするサイトやアプリが開発されており、URL を開くだけでアクセスしてもらうことができるのです」
「Corridor Crew(視覚エフェクト技術者集団) に注目していました。彼らには、動画から人を抜き出し、背景を別の動画に置き換え、その人を上に重ね直すという難題がありました。その最速のソリューションは、ブラウザと ML を使って構築されました。🤯
同時に、ウェブでは絶対にできないと思われていたようなアプリをウェブ化している人たちを応援しています。たとえば、Photoshop や Audacity などです。今や、フル機能の動画エディタをウェブで作ることができます。ブラウザさえ使えれば、誰でも動画を制作できるのです。すばらしいことですね。
ウェブでは、リンクをクリックするだけで、たくさんのことができます。その多くは、できるとは思っていなかったことです。毎日のように何かを見て刺激を受けています。だからウェブが好きなのです」
Chrome やウェブのテクノロジーの具体的なユースケースで、特におもしろいと思ったものは何でしょう?
「個人的には、Fugu(ディープ ハードウェア)の API セットに夢中になっています。あらゆる種類の業務を初めて完全にウェブ化するものだからです。
新しい範囲を扱う CSS や UI 関連の API にも期待しています。これまで複雑だったことを、信じられないほど簡単にしてくれるからです。ウェブは主に視覚によるメディアですが、品質に関する認識は他のプラットフォーム(Android や iOS のアプリなど)よりも遅れています。こういった新しいプリミティブや概念によって、高度で滑らかなユーザー インターフェースが実現できるようになり、デベロッパーやデザイナーの作業も少なくなるはずです」
Chrome やウェブの開発を成功させる秘訣は何ですか?
「段階によりますが、すでに確立されているサイトであれば、ウェブに関する主な指標などを利用してユーザー エクスペリエンスの改善方法を探るとよいでしょう。
開発を始めたばかりであれば、ただ始めるだけです。ブラウザでプロトタイプを作り、驚くほど短時間で実用的なものを提供できるようにするツールはたくさんあります。これまではフルスタック(ホスティングからフロントエンドまで)について考える必要がありましたが、そのような心配は少なくなっています」
Chrome やウェブのコミュニティが次に期待すべきことは何でしょう?どんな未来像が描けるでしょうか?
「何を話しても正解にはならないと思います。😀 ただ、こういった質問は好きなので、話してみることにしましょう.... あるブラウザに機能がリリースされ、Blink、WebKit、Gecko でもれなく利用できるようになるには、3 年から 5 年ほどかかるようです。この点を考慮すると、近い将来は今とそう変わらないものの、(互換性の意味で)均等になるのではないかと思います。Interop 202X などのプロジェクトによって、どんな環境でも動作するサイトが作りやすくなっています。
ただ、さらに遠い未来については.... 何年か前に、「ヘッドレス ウェブ」という考え方についてお話ししたことがあります。つまり、Siri や Google アシスタントのようなサービスやアシスタントがウェブページを深く理解し、(読み上げるだけでなく)さまざまな操作ができるようになる可能性が高いと考えています。
同時に、たくさんの他のプラットフォームによって、ウェブが意味するものの定義が変わりつつあります。Facebook や WeChat などは、それ自体がブラウザでプラットフォームなので、いつでもそのプラットフォームに戻ることができます。世界がモバイル化する中、この数年間でオンラインにやってきた何十億という人々(そしてこれからも、何十億という人々がオンラインにやってきます)に目を向けてみましょう。そういった人々は、私たちが知るような形でブラウザを使うでしょうか。それとも、そういった「代替ブラウザ」プラットフォームを使うでしょうか...
確かなのは、ウェブのエクスペリエンスを誰にとっても優れたものにし続けなければならないことです」
現在、ウェブや Chrome が重視しているものは何ですか?その理由は何でしょう?
「Chrome は今も、『高速、シンプル、安全なウェブ』というリリース時と同じ原則を重視しています。この観点で見れば、私たちの作業のほとんどはこの目的に沿ったものです。たとえば「ウェブに関する主な指標」では、サイトのユーザー エクスペリエンスが適切かどうかを判断できる一連の指標を見つけ出しました。これがウェブを根底から変化させると考えています。別の軸には、WASM などのテクノロジーがあります。これはネイティブ コード(C/C++ など)をブラウザのサンドボックスで安全かつ高速に実行できるようにする方法です。その速度も、インストールしたアプリケーションの速度に近づいています」
ウェブと Chrome によって、デベロッパーの可能性はどのように広がりますか?
「一言で言えば、ユニバーサル アクセスです。それを実現するのがリンクですが、リンクを誰もがアクセスできるオープンなものにし続けるには努力が必要です」
ほかに世界中の Google デベロッパー コミュニティにお話ししたいことはありますか?
「今、世界は混迷を深めています。人々の声を聞き、人々を支え、人々が立ち上がる手伝いをしましょう。私がそれを始めたとき、まわりのコミュニティはとても協力的で、自分が貢献する以上に助けてもらいました。ありがたいことに私はチャンスをもらいましたが、今は、あらゆる背景の人が同じチャンスを得られるようにすることに時間を使っています。同じことをしてくれる人がいるとうれしく思います」
DevFest を開催している近くの Google デベロッパー グループを探す
Google のウェブ テクノロジーや Google Chrome についてもっと知りたいと思った方、DevFest や Google デベロッパー グループ(GDG)に参加してみたいと思った方は、こちらから、お近くで DevFest を開催している GDG を探しましょう。