レッドオーシャンと言われ出してから久しい国内モバイルゲーム市場。キャラクターやアイテムなどを排出するガチャに頼り切ったマネタイズが頭打ちになりがちな中で、既存のアプリ内課金に加え動画リワード広告を組み合わせる新たな手法が注目を集めています。まだ成功しているタイトルも多くない中、『ヴァルキリーコネクト』などを手掛けるエイチームは、国内の既存売上を減らすことなく、海外でも着実に売り上げを伸ばしているといいます。
アプリ内課金をマネタイズの軸とするモバイルゲームに動画リワード広告を導入する際のコツや注意点は?そして、それを支える Google AdMob(以下、AdMob)のメリット、魅力はどこにあるのでしょうか?全世界で累計 2100 万ダウンロードを突破している『ヴァルキリーコネクト』をはじめとするモバイルゲームの開発・運営を手がけるエイチームでモバイルゲーム全般のマーケティング戦略を担う河野光志氏に話をうかがいました。
AdMob とは?
AdMob は、Google が提供するモバイルアプリを収益化するための広告サービス。Android のみならず、iOS にも導入可能で、
同社がもつ世界最大規模の広告ネットワークをベースに多種多様な広告と潤沢な在庫でアプリの収益化を後押ししてくれます。現在 Android アプリのトップ 1,000 タイトルのうち導入率は 81%、広告主の数も 100 万以上(世界トップの広告主のうち 97%が出稿)と、良質なネットワークを形成しています。
広告の収益管理となると煩雑な業務や高度な知識を求められるイメージもありますが、Google はいかにマネタイズを容易にし、本質的にゲームやアプリの開発にパブリッシャーやデベロッパーが専念できるかを念頭にサービスを設計しています。アプリ内広告のオープンビディングやアプリ内課金とハイブリッドで活用するための予測機能なども備えているほか、国別で自動最適化も可能になっており、まさに Google だからこそ提供できるハイクオリティな広告サービスといえるでしょう。
日本の開発者が海外市場を見据えるべき理由と AdMob が持つ強み
-- AdMob でハイブリッドなマネタイズを実現したという『ヴァルキリーコネクト』(以下、ヴァルコネ)ですが改めてどのような作品か教えてください。
河野 本作は北欧神話をモチーフにしたハイファンタジー RPG で、2020 年の 4 月に 4 周年を迎え、直近では全世界で 2,100 万 DL を突破した長期運営タイトルです。種族や属性などを加味しながらパーティーを編成し、基本的には自動で進行する準オートバトルを通してキャラクターを育成しつつ物語も楽しみ、他のユーザーとマルチプレイで強力なボスと戦う... という今となってはスタンダードになったスタイルのゲームです。
-- 国内動画リワード広告市場は年々右肩上がりの急成長を続けており、2018 年に 170 億円相当とされた規模は、2022 年には約 380 億円規模まで拡大すると予測されていますが、『ヴァルコネ』のように国内のモバイルゲームに導入されている例はまだ多くないと感じています。マネタイズに動画リワード広告を取り入れたきっかけはどのようなものでしたか。
河野 『ヴァルコネ』は国内展開だけでなく海外展開にも注力しており、新規ユーザーの流入はまだまだ伸び続けています。
一般論としてモバイルゲームは運営が長期になるほど新規ユーザーの獲得が困難になり、広告で獲得したユーザーに課金してもらって ROAS(Return On Advertising Spend)を回収する、というモデルに無理が生じてくるんですね。また、いわゆる "石"(ガチャを回すための課金アイテム)などの直販は、海外より国内の方が圧倒的に多くなっています。
-- ユーザー 1 人あたりの課金額は、日本が圧倒的に高いとされていますね。
河野 ですので、国内海外を問わず、無課金ユーザーの方のプレイも動画リワード広告で課金転化できればと考えたのがきっかけです。また、モバイルゲーム市場は国内でも海外デベロッパーやパブリッシャーによるヒット作が増えてきていますので弊社は元々海外にも積極的にチャレンジしていこうという姿勢でいました。海外では動画リワード広告とアプリ内課金のハイブリッド手法は徐々に成功事例もでてきていたので、これはエイチームとしてもチャレンジすべきだろうと判断したのが 2018 年頃のことですね。
-- とはいえ、同様のサービスを提供する企業は多くいます。導入するにあたり、AdMob を選んだ理由はどこにあったのでしょう?
河野 他の広告プラットフォームもいくつか検討しましたが、海外向けの広告在庫が圧倒的に多いというのが理由のひとつです。ウォーターフォール型の実装がされているので、高い eCPM(effective Cost Per Mille)を出しやすく運用しやすいというのも大きな魅力でした。
また、フィルター機能の使いやすさもチームのメンバーからは好評でした。ある動画広告を見たユーザーの方たちから「こういう動画は不適切ではないのか」とお問い合わせをいただくこともあるのですが、AdMob ならキーワードや画像で広告を検索し、手早く配信を止められます。優れた検索機能のおかげでこちらは工数を抑えられますし、ユーザーのみなさんのストレスもいち早く軽減できます。
-- そうした事例も含め、広告のチューニングにかけている工数はどの程度なのでしょうか。
河野 弊社の場合は兼任で 2 名ですね。AdMob 自体が、自動化できるところは極力自動化してデベロッパーを開発に専念しやすくするというコンセプトですので、今後もこの工数が大きく増えることはないのかなと。
-- AdMob による動画リワード広告を導入して、収益はどのように変わりましたか。
河野 『
ヴァルコネ』や『
ユニゾンリーグ』では、動画広告を見ることで回せるようになる "動画ガチャ"を実装しています。当初はよかれと思ってガチャ限定のキャラが排出されるようにしていたのですがこれが逆効果で、ユーザーの多くが直販の "石" の購入を控えてしまうようになり、収益が落ちてしまいました。
その後方針を変更し、キャラクターを強化するための素材などが出るようにしてからは収益は戻っています。すでに運営しているゲームに組み込む場合は、実装の仕方をよく考える必要があると痛感したエピソードですね。
-- 動画広告導入によるユーザーからの反応はいかがでしたか。結構反発もある気もします。
河野 ゲーム側から強制的に広告を見せることはなく、動画ガチャを回そうとして初めて目にするものですので UX を損なうこともなく、"素材やアイテムをより多くもらえる手段のひとつ"として受け入れられていると感じます。
同業の方は「他のモバイルゲームの広告なんて見せたら、ユーザーが流出してそっちに移ってしまうのではないか」と懸念されるかもしれませんが、導入したことで DAU が大きく減ったということもないですね。私見ですが、モバイルゲームを 1 本だけ遊ぶユーザーはむしろ少ないのではと思いますので、広告を見て他のゲームを始めたとしても、こちらのプレイも続けてくれているのかなと。
河野 導入前と導入後で、効果は大きく変化しており手応えを感じています。
広告の設定やタイミングを Google のチームが手厚くサポート
河野 『ミクたぷ』は、タップするだけの簡単操作で誰でも気軽に楽しめる、バーチャル・シンガー「初音ミク」の新作スマートフォン ゲームです。ゲーム中の楽曲やミクが着るコスチュームの一部はユーザー応募によるもので、ユーザーのみなさんといっしょに盛り上げていくというのがコンセプトです。
今までに挙げたタイトルでの結果から確かな手ごたえを感じましたので、『ミクたぷ』はアプリ内課金と動画リワード広告による収益の割合を 6:4 くらいまで持っていきたいという前提で設計しています。設計に際しては開発段階から Google さんにもご協力いただけて、広告を出すのはどういうタイミングがいいのか、何分後がいいのか、何回出せばいいのかなど、事細かに相談させていただいてチューニングしました。特に海外での成功事例なども最新情報を共有してもらえるのがありがたかったですね。
具体的には、前述した動画ガチャに加え、ホーム画面で時おり流れてくる星をタップすると動画広告を見られるなど、ゲームの根底の部分にも組み込んでいます。
-- 当初からゲームの設計に組み込むことで、開発チームもそれまで以上に広告の導入に深く携わっているかと思いますが、開発側のモチベーションはいかがでしたか。
河野 開発当初からアプリ内課金と動画リワード広告の収益を合算した数字を売り上げ目標としていたので、むしろサービス開始後に導入したタイトルよりもプロデューサーの熱意や関心が高いと感じますね。
また、ユーザーにとってみても、動画広告を見ているのといないのとではキャラクターの成長速度に違いが出るとなると、それが導線になりますので、広告を見るという行為をゲームサイクルに自然な形で取り入れられているのではと思います。
『ミクたぷ』の動画リワード広告は Google さんの手厚いサポートのおかげもあり、問題やトラブルはほとんど発生せず好調に推移しています。
-- 最初からハイブリッドでいくとなるとゲームのシステムやレベルデザインから LTV の考え方まで、これまでのお作法からは変化がありそうですね。
河野 そうですね。やはり何日プレイしたら、毎日動画リワード広告からボーナスを得る人とまったく得ない人でどれくらい差が出るか、といったこれまでにない指標も頭に入れながらレベルデザインを考える必要があります。どれだけユーザーに長く遊んでもらえるかということが重要なので、そのあたりのチューニングは大事になってきますね。
また、これまではいかにイベントを適切なタイミングでやって、限定のキャラを見せてユーザーを課金させるかというのがオーソドックスな手法でしたし、LTV を計測するときもいかに課金をしてもらうか、ということでしか測れませんでした。しかしハイブリッドなマネタイズモデルを導入することで、必ずしもアプリ内課金をしてもらう必要がなくなるわけです。
今、アプリ内のイベントにもチュートリアルクリアや課金といったポイントだけでなく、動画ガチャという地点も追加しています。長期タイトルだと前述のとおりなかなか新規ユーザーの獲得というジャッジを今の KPI ではしづらいのですが、動画リワード広告の収益も LTV として考えると、まだまだ新規にアプローチできるという判断もできると思いますし、どうしても既存ユーザーに目が行きがちな戦略も大きく変わってくるかもしれません。今後数値を整理しながら新しい施策に組み込めるようにしていきたいですね。
-- 動画リワード広告とモバイルゲームという組み合わせを聞くとハイパーカジュアルゲームが思い浮かびますが、国内でゲームアプリとしてはメジャーであるアプリ内課金を軸にしたゲームでも大きな可能性があることがわかりました。
河野 繰り返しになってしまう部分もありますが、国内モバイルゲーム市場は、課金アイテムの直販によるマネタイズが主流ですが、海外勢はそもそもガチャがないアプリも少なくありません。
海外を見据えるなら、日本と比べたときの海外ユーザーの課金率の低さを補うためにも動画リワード広告の導入は必須といえます。ただ、私も先ほど失敗談をお話ししたように、どこにどのような広告を入れて、ユーザーにどのような報酬を与えるべきかという手法はゲームによってまちまちです。その点、AdMob はジャンルに応じたプレイブックが用意されているほか、こちらからの相談にも手厚くサポートしてもらえます。海外に出たいけどマネタイズが不安という方には、ぜひこうしたマネタイズ手法があることも頭に入れてチャレンジしてほしいです。
さまざまな SSP(Supply Side Platform)を連携できるのも欠かせない魅力のひとつですね。広告の在庫量や管理のしやすさも含め、モバイルゲームのマネタイズと生き残りを改めて考えるうえで AdMob は外せない選択肢となるのではと思います。
河野氏も語るように、ガチャを回すためのアプリ内課金だけに頼らない新たなマネタイズ手法を模索する必要がある昨今のモバイルゲーム市場。まだ国内市場も元気があるとはいえ、やはり更なるパイを求め海外に進出しようとするパブリッシャーやデベロッパーも少なくないはずです。
とはいえ、その設計や運用工数を考えると、どうしても二の足を踏んでしまう方も少なくないでしょう。新しいマネタイズにチャレンジしたい、海外でも収益性を高めたい、でもリソースは限られている... 尽きない悩みの中で AdMob は有力な選択肢としてあげられるのではないでしょうか。
収益性の高さはもちろん、チームによるサポートや、広告を適用したいゲームのジャンルに応じたプレイブックが用意されているほか、デベロッパーが少しでもクリエイティブに専念できるようにとの思いから機械学習などを生かした自動化ツールも導入されています。事実エイチームでも運用人数はマーケティング チームの一部でまかなえているということで、「とりあえず AdMob をいれておこう」という判断も間違いではないかもしれません。
すでにアプリ内課金と動画リワード広告によるハイブリッドなマネタイズ事例も国内外多数あるということで、興味のある方はぜひ導入を考えてみてはいかがでしょうか。