IT 活用の意味 - エンタープライズ IT と ビジネス IT
小島:内製とするか外注とするかの判断基準として、コストとコモディティ化というものが上がりました。ただ、そう単純に分けられないと思うのですが、どこで分ければ良いのでしょうか?
小野:内製か外注かの議論の前に、そもそも、IT の位置づけがこの数年間で大きく変わっています。IT を使うという言葉には 2 つの意味があります。社内の業務効率化のために IT を使う、エンタープライズ IT と呼ばれるもの。そして、最近のデジタルディスラプションの文脈で語られる IT です。Uber が良い例ですよね。従来の ERP を中心とした、エンタープライズ IT のように、業務の効率化や自動化を目指した世界とは全く異なります。ユーザーに提供するものに IT が密接に関係してきているわけです。ビジネスをより魅力的なものにするための IT とは分けて考えるべきです。
小島:なるほど。
小野:私は、エンタープライズ IT については、ある程度は外注でも良いと考えています。しかし、もう一方のビジネス IT は自社で開発すべきです。要件定義をしてその通りに作り、良かったねではユーザーにとって使いにくいものしかできないと思うのです。たとえ最初の要件に合ったとしてもこまめに改善しなければいけませんからね。
小島:事業そのものは自分で作りなさいということですね。自動車業界はどうなのですか?たとえば、エンジンはスバルさんが自社で作るけれども、オーディオなどのアクセサリまわりは他社製でも良いわけですよね。
辻:自動車業界は歴史も長く、世界経済を支えてきた自負もある、自社の強みが何かをしっかり持っています。その強みの部分はもちろん内製します。そうでないところは外部から調達します。ただ、IT に関わる部分は最近の出来事で、先程のインカーやアウトカーの議論ではないですが、一気に押し寄せてきたこともあって内製か外注かというところはまだ混沌としています。
長谷川:自動運転は各社違うのでしょうか?スバルさんにはアイサイトがありますが、世の中にはそこだけを一生懸命作るメーカーもあります。そういうものを使ったらいいんじゃないか、自社で作らなくてもという考えはないのでしょうか。
辻:アイサイトと機能的に似ているものは確かにあります。しかし、嵐の中でも快適に走りたいというスバリストにはやはりアイサイトです。雨の降る日はスバル日和と言うユーザーにとっては、汎用的なカメラではだめなんですよね。多分大衆車であればある程度使えのかもしれませんが、スバルの場合はどうかなという感じはありますね。
小島:他メーカーだったらここは外のでいいとしてもスバルさんだったら、もしかしたら、そこは内製になる。顧客ニーズ、技術動向などいろいろな要素を考えて仕分けしていかれるのでしょうね。
辻:そうですね。以前は、ERP が企業内システムのど真ん中にいたわけですが、今は端の方にいっちゃったじゃないですか。まだ、企業内システムのところにリソースをかけすぎているところもあるので、お客様対応の部分にリソースを配分するようにしていかなければなりません。
小島:メルカリさんは、コアのサービスはもちろん内製でしょうが、逆に外部から調達するものはありますか?
長谷川:人事システムのように特異なところは一部内製もありますが、基本的に SaaS です。しかし、外部から調達したものをカスタマイズして使おうという考えはなくて、カスタマイズ無しで、どううまく使うかを常に考えています。
小野:SaaS を使うことで社内システムを実現しているのですね。
長谷川:海外にはニッチな SaaS がたくさんあります。たとえば、最近日本市場に入ってきた BlackLine というサービスがあります。これは、会計の損益計算書と元々の伝票を突合するサービスです。
小島:そこだけのサービス?
長谷川:突合だけです。日本だとそれで売れるのかと疑問に思われるでしょうが、アメリカではかなり売れているらしいです。そこでメルカリも導入しました。会計上の処理のログがすべて取れるので、そのまま会計士にログも含めてデータを渡すだけで面倒な作業は一切無し。ニッチな SaaS ですけど、とても役立っています。BlackLine は大手企業でも採用が進んでいるようです。
小島:個々の作業は大したことないですが、積もると膨大になりますしね。だから、SaaS でという考えですか。
長谷川:でも、そうかんたんに導入に至ったわけではありません。いままで Excel でできていたことですからね。 Excel でできているのなら、そのままやればいいじゃないかという考えもあったわけです。
SaaS、クラウドはこれからどんどん新しい機能がでてきて、この伝票、ちょっと怪しんじゃないかといった AI らしきものも出てくるでしょう。Excel だけではできない、何かプラスアルファの価値が SaaS にはあります。パッケージをインストールして使っている世界はそれ以上伸びしろはないですが、SaaS にはそういうものがあるわけです。だから、さっさとクラウド、SaaSに移行した方が良いと思っています。
後編に続きます。
Posted by
Takuo Suzuki - Developer Relations Team