2019 年 3 月 1 日に開催した第 8 回目のイベントは、「エクスペリエンスドリブンに向けた不可避な流れ」をテーマに、ユーザーエクスペリエンスの分野で多くの実績を持つ THE GUILD の深津さんをお迎えし、あらゆるシーンでエクスペリエンスが重要視されている背景と、それを実現するテクノロジーについて、リアルなユースケースをもとに不可避な流れについて語っていただきました。
なぜ、今「体験」なのか?
小島: 体験が、なぜ今大事なのかという話題に進みましょう。
「経験則から言えば、お客はいい体験をすると、その話を 3 人に話す。しかし、悪い体験をすると 10 人に話す。」(レジス・マッケンナ)
こういう示唆があります。note の開発でもこうしたことは気にされているのでしょうか?
深津: いい体験をどれだけ増やしていくかとともに、悪い体験には出会わないようにすることを心がけています。
小島: なるほど。この示唆がもし正しいとすると、3 人いい体験した人がいたとしても、1 人悪い体験した人がいたら、悪い体験の方が勝ってしまうっていうことですね。
そして、体験の質も大事ですよね。
コーンエクスペリエンスという図(Edgar Dale’s “Cone of Experience”, Audiovisual methods in teaching. 3rd ed. )があります。人は実際に行動を起こしたものの方が強く記憶に残っていて、ちょっと見た程度ではすぐ忘れてしまう、というものです。つまり、エクスペリエンスを高めるためには、全員に何かしらの行動させなきゃいけないということになりますが、そういう理解でよいですか?
深津: 個人的には、コーンエクスペリエンスは誤解を生じやすい考え方と思っています。ここでは、読む体験よりも、実際に自分で触ってみたり運動したり活動する体験の方が、強い体験、濃い体験であるとしています。しかし、だからと言って、それが必ずしも良い体験というわけではありません。
小島: 体験の良さではない?
深津: お味噌汁の話に例えると、単に読むことと実際に行動におこしたことで体験の濃さが違うというのは、味噌汁が薄い味か濃い味かという話にすぎないのです。美味しいかどうかという話とは別の次元です。
小島: なるほど。いつも食べたい味なのか、特別な時に食べたい味なのかというと、また全然違いますね。
深津: 飲食店の場合は、そこは商売ですからガツンとくる味が求められます。しかし、人は毎日そういうものを食べたいと思っているかというと、ちょっと違いますよね。塩分が強すぎて体が壊れちゃいますからね。あと、夫婦生活でもそうですよね。
小島: 結婚ということですか?
深津: 結婚式は劇的な方が良いですけど、日々の夫婦生活で結婚式のテンションを維持し続けることはなかなか難しいですよね。
小島: 3 日も持たない気がします(笑)。
深津: 体験というのは、強ければ良いというものではないのです。適切なタイミングで適切な強さを与えた方が良いわけです。最初に印象の強いものを出して、次は定番のものを出し、珍しい味が来て、強い味のメインディッシュが来て、最後は甘いデザートといったように。この流れが良い感じに切れずに繋がっていくのが本来だと思います。
付加価値と差別化を理解可能にすること
小島: UX は大事になっていきますよね?
深津: これからは、全体的に UX が大事になっていきます。では、なぜ大事かというと、結局テクノロジーというのは飽和しつつあって、テクノロジーとかスペックとか価格とかで勝負がつかなくなってくると、その上のレイヤーでの差別化が重要になるからです。
小島: スピードが速い、解像度が高いといった観点で勝負できたことが、今はみんな一緒ということですね。
深津: たとえば、解像度が 1 億ピクセルのカメラと 1 億 1 ピクセルのカメラがあるとしましょう。このレベルになると、解像度では勝負にならず、撮っていて楽しいとか、使い甲斐があるとか、そういうところが重要になってきます。
小島: 機能差で勝負ができたことが、やがてそれだけでは勝負がつかなくなるということですね。
深津: 自動車、コンビニエンスストアなどの業界では、プレイヤーが提供するもののスペックや価格がほぼ同じレベルです。その結果、抽象的な場所での戦いになってきます。
小島: 加えて、テクノロジーは後発がキャッチアップしやすいので、先行していたとしてもどこかで付加価値とか差別化の視点を変えることが必要で、それがエクスペリエンスだということでしょうか。
深津: そうですね。一方、スケールメリットを生かして、先行者が逃げ切れる業界もあります。そういう業界では、だいたい勝者は一人で、市場が独占されて他のプレイヤーが排除されてしまうため、UX は良くなりません。なぜならば、もう市場を独占しているのであえて新たに投資する必要がないからです。
深津: テック企業と非テック企業でも格差がついています。
小島: 例えば、アマゾンと他の e コマースって同じように見えますが、テック企業かどうかという違いがありますよね。
深津: スケールで何百万倍も違いますし、予算規模、配達個数も桁違いですから、最初からスペックでは勝負できないわけです。したがって、必然的にスペック以外のところに勝負の場所をずらすことになります。たとえば、「100 個しか生産できないすごい植物」とか「あなたのために心を込めてやりました」といった、違うレイヤーにずれていくわけです。
小島: 今治タオルで有名な愛知県今治にイケウチオーガニックという会社があります。ファンを大切にしていて、タオルを作る人とファンが交流できる場があります。ファンの方はそこで感動して、他の人にも今治タオルをお勧めするわけです。タオルの値段や個数だけではトップにはなれないのですが、違うところで勝負されているんですね。
後編に続く。
Posted by
Takuo Suzuki - Developer Relations Team