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INEVITABLE ja night 開催レポート:VUI は家電業界にとって衝撃的なゲームチェンジャー(後編)
2019年2月5日火曜日
クラウド技術の進化が引き起こすその先の世界を、機械学習、VR / AR、IoT などの領域で活躍されているスタートアップの方々と一緒に議論するイベント「INEVITABLE ja night」。2018 年 5 月 23 日に開催された第 4 回目は「VUI がもたらす UX(ユーザー体験)の不可避な流れ」がテーマでした。この記事では Shiftall CEO の岩佐琢磨氏と、Still Day One 代表の小島英揮氏の対談セッションのサマリー(後編)をお伝えします。(前編は
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岩佐琢磨氏 株式会社 Shiftall 代表取締役 CEO(写真右)
小島英揮氏 Still Day One 合同会社 代表社員 パラレルマーケター・エバンジェリスト(写真左)
VUI の進化で、API がない既存サービスも接続可能に
小島 :
ところで、Google I/O 2018 で、AI が電話をかけるという発表がありましたね。
岩佐 :
久しぶりに衝撃でしたね。
小島 :
本当に衝撃でした。デモでは人間と AI がしゃべっていて、それがテキストになる。お店の人が「ちょっとお待ちください」というと、AI が「ほわほわ」って言うんです。非常に人間っぽい。それで会場が、どっとウケて。これだと相手が人間か AI かわからないという意見もあったようで、Google さんは「AI がしゃべります」みたいな宣言をするようにした。それぐらい自然です。
岩佐 :
「この会話は録音されています」と最初に宣言するのと同じですね。
小島 :
宣言しないと見分けが付かないぐらい、よくできています。この会話する AI は、毎回「OK、グーグル」と言わなくても継続して会話ができて、それにサービスのインテグレーションがすごいです。地図をナビゲーションしながら、途中で「いつものスターバックスでコーヒーを注文しておきますか?」と向こうから聞いてきて、「やって」というと注文してくれる。VUI は外部のサービスとつながるとすごいなと思いました。今までだと、相手側のサービスにAPI の口が開いてないとつなげなかった。ところが電話をかければいいということになれば、ほぼすべてのサービスとつながるんですよ。これは破壊的だと思いました。
岩佐 :
電話はいつまでも残るだろうし、そこをハックしてやろう的な発想ですね。
小島 :
少なくとも、英語ではもう実現できそうに見えます。
なぜ VUI がゲームチェンジャーなのか
小島 :
岩佐さんの本業であるハードウェアベンチャーの視点から見て、VUI ってそもそも本当に重要ですか、なぜ重要なんですか、ということを、教えていただけませんか?
岩佐 :
ハードウェアスタートアップは当然ハードウェアを作って売る会社ですが、当然、既存の市場には既存のユーザー、既存のブランドがあって、そこにはたいてい大企業がいます。大企業は「シリアルイノベーション」とでもいいますか、ちょっとずつ技術を積み上げる持続的な、先が見えるスタイルで開発しています。例えば HD テレビの後にフル HD を作り、4K を作り、8K を作る。
それに対して、まったく新しいゲームチェンジャー的なテクノロジーがポンとでてくるとしましょう。そういうとき、スタートアップは、従来のシリアルイノベーションをやってきた人たちやマーケットに対して、ディスラプティブ(破壊的)なゲームチェンジを仕掛けていく訳です。VUI って、明らかにそのようなテクノロジーです。
そういうゲームチェンジャー的なテクノロジーが出てきたタイミングが、ハードウェアベンチャーにとってチャンスなんです。なので、質問へのお答えとしては、ゲームチェンジャーとなるテクノロジーとして VUI が出てきたから、やはり重要という話になります。他にも、非接触充電とか、LTE カテゴリー0、NB-IoT(Narrow Band-IoT)、5G 通信とか、いろいろあります。その中の 1 つとして VUI は結構重要かなとみています。
小島 :
なるほど。「木を見て森を見ず」曰く、要素技術だけを見ているだけではだめで、明らかに大きな森ができているのにそこに行かないのはどうして、という感じなんですね。
岩佐 :
そうですね。次に、この質問を「家電業界で VUI は重要なのか」と読み替えると、また回答が変わるんですけど。
小島 :
その点は、ぜひ最後に質問させてください。
音声関連ハードウェアの技術進歩が下地としてあった
小島 :
VUI がゲームチェンジャーになった背景に、重要な要素技術があると思っています。クラウド育ちの自分としては、どういうインターフェース、どういうモジュールがあれば、どんなインタラクションができるか、という上位レイヤーの方に頭が向くんです。つまりクラウド AI ができれば、後はどんなものでも実装していけると考えてしまうのですが、実は意外に難しいという話を聞いたことがあります。VUI が使えるようになった理由にはどんなことが考えられますか?
岩佐 :
まず最初に誤解がないようにお話しますと、サーバーサイドで機械学習を回して賢くなる、という部分が全体の 8 割、9 割です。GPU の進化、ソフトウェア面での進化もありました。ですのでハードウェアの要素は全体の中では大きくありません。とはいえ、残りの 10% の部分が簡単かといえば、そうではありません。
例えば、ポリコムの電話会議システムをご存知の方もいらっしゃるかと思います。マイクロフォンの集音、エコーキャンセリング、ノイズキャンセリング、ビームフォーミングなど、いろいろな技術を組み合わせて電話会議システムとして組み上げる技術は簡単ではないし、市場もニッチです。これは電話会議やボイスレコーダーでしか使われていなかった技術なんです。
最近、外部の音がちゃんと消える高性能なノイズキャンセリングヘッドフォンが出てきました。マイクロフォンや音声を処理するプロセッサなどの技術がすごく良くなりました。これはスマートスピーカーの登場と同じぐらいの時期です。
ここ数年で音声を扱う技術がすごく良くなったわけです。そして、今まで B2B の電話会議システムぐらいでしか使われなかったニッチな技術が、一挙に大勢のエンドユーザーが使うスマートスピーカーなどの製品に組み入れられるようになったのです。
小島 :
ちょうど複数の技術が交差したような感じですね。クラウド側では AI が賢くなって、たくさんの仕事をしてくれるようになり、フロント側ではポリコムのような性能の音声処理が低価格のデバイスでできるようになった、ということですね。
岩佐 :
要素技術は昔からあったわけで、そこに大きな資金を投入して製品化したところがまずすごいと言えます。コロンブスの卵です。実はこういう使い方があって、それに、サーバー側がこれだけ賢くなれば、これはワークする、と判断して資金を投入したという点です。
小島 :
見方を変えると、そういう「目利き」さえいれば、誰もができることだったのでしょうか?
岩佐 :
本当にそうだと思います。今から思えば、フロントのハードウェア側だけを見れば難しいことではないです。ちなみに、ここ 3 年ぐらいで、スマートスピーカー関連分野のプレイヤーがたくさん出てきました。組み込みソフトウェア、チップセット、マイクロフォン、そうした要素技術のベンダーがこの領域に参入しているので、今から作るのは簡単なんです。
小島 :
今からなら簡単だけど、3〜4 年前にみんなが買えるようにパッケージングして、かつエコシステムを構築するには、相当な能力が必要だった。
岩佐 :
いい意味で「バンと張った」感じですね。
小島 :
VUI をハードウェアに実装するときの難しさは何でしょうか?
岩佐 :
例えば、音声処理で有名なコネクサントという会社がありました(注:2017年にシナプティクス社に買収された)。音声処理技術を持っていて、組み合わせるマイクロフォンはこれが推奨です、というワンセットがそろっています。では、それを使えば誰でも簡単に音声を扱うデバイスを作れるかというと、そうではありません。
音声を扱うデバイスの筐体設計は結構センシティブですし、ノイズ処理もしっかりする必要があります。それとスマートスピーカーって意外と消費電力が大きいです。ずっと動いていますからね。だからきちんと熱設計する必要があります。ハングアップしてはいけないので、その点もきちんとしなければいけません。
小島 :
要素技術は調達しやすくなって作るハードルは下がったけど、最終的にすりあわせてものを作る難しさは残っているということですね。そこでアイデアがあれば、第二、第三のスマートスピーカーのような新しいデバイスを誰かが形にできるかもしれませんね。 VUI のプラットフォームが開放された時代の家電とは
小島 :
VUI がもたらす家電の未来はどんなものでしょうか。もしかしたら、岩佐さんが今作っているものがそれかもしれないんですけど。
岩佐 :
この話は何段階かにわかれます。まず、短期的には、家電業界はその業界の中で閉じていたのが、そうではなくなります。その昔、録画用ビデオテープの規格として Beta と VHS との争いといった業界内部の戦いをずっとやっていたじゃないですか。誰がプラットフォームを押さえるんだ、と。外からきた人にはこの規格を渡さないよ、とか。ところが、家電ベンチャーの立場から見て VUI が面白いのは、Amazon、Google などがみんな規格をオープンにしているところです。
小島 :
当時の家電メーカーは垂直統合したいので、テクノロジーも基本的には門外不出だったと。
岩佐 :
他の会社には使わせない。なぜなら、彼らの収益源は家電そのものだったからです。
小島 :
Google やその他のクラウドベンダーは、クラウドの中身が大事だから、それを使ってもらうための仕様、規格はオープンにしますということですね。
岩佐 :
はい。家電ベンチャーにとって VUI の何が衝撃的だったかというと、Google が Google アシスタントをいろいろな機器に入れて、「皆さん、どうぞプラットフォームを使ってください」と解放したことです。これが、なにより大きいです。
小島 :
従来の家電業界だと起こり得なかった流れでしょうか?
岩佐 :
過去にそういうことが起きたことは、ほぼないです。それがいきなりドンと来ました。しかも、複数の企業からそういうプラットフォームが出てきました。
操作の部分を全部 VUI に任せられるわけですよ。しかもプラットフォームが解放されていて自由に使えるわけです。これが「VUI がもたらす家電の未来」につながっていきます。
ハードウェアを作る会社が、「操作の部分は Google の VUI にお任せ」とするには、どうすればいいのかというと、ネットワークにつながらないといけません。TCP/IP、UDP をしゃべらないといけないことになります。
ここで、VUI が来ることによって、皆さんの身の回りの家電製品がネットワークにつながるようになります。私の肌感覚で、そういう動きがここ 2 年ほど強烈です。すごい勢いで、とにかくネットワークにつながなきゃいけない、という流れになっています。
小島 :
ネットワークにつながらないと、せっかくの VUI の大きなムーブメントに乗れないということですね。
岩佐 :
はい。そうでないと「Google アシスタント対応」と書けませんからね。
ここまでが第一段階です。本当に面白いのはその先だと思っています。皆さんの身の回りにネットワーク対応の家電製品が増えました、となった先に、新しいことがあると思うんですよね。それは機器の相互連携だと思っています。機器 A と機器 B と Google アシスタントなり Google Home なりが相互連携をして、快適な空間を作ってくれる、快適な車内、快適な生活を作ってくれることになります。生活する人にとってきわめて便利になるわけです。
小島 :
それを 1 社でやろうと思ったら恐ろしく投資しないといけなかったのが、みんながこぞってつながるものを出すことで、つないだ上でその使い方を考えた人が勝ちになるということですね。新しいエコシステムですね。
岩佐 :
それはすごく楽しみだし、いいものが出てきてほしいですね。
小島 :
ということで、VUI はテクノロジーというよりも大きなゲームチェンジの波だということが、このセッションを通じて見えてきたと思います。どうもありがとうございました。
INEVITABLE TV - 「VUI の普及と進化の方向性」
岩佐さんをゲストにお迎えし、イベントでは取り上げることができなかったこと、語り尽くせなかったことを中心に、お話いただきました。
VoiceUI の普及について
VoiceUI のユースケース
家電マルチリモコンの標準化について
VoiceUI の進化の方向性
VoiceUI は購買体験をどのように変えるか?
VoiceUI で変わる家電の今後
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